【01】『被抑圧者の教育学ー新訳』第4回レジュメ

第四章

2014/08/07 発表:高向伴博

第4章 反−対話の理論

この章で述べられていること
【大きなテーマ】:革命(変革)のための理論と実践について(ex:革命理論なしに革命的行動はないbyレーニン[199])
【小さなテーマ】:①支配者の視点(反対話的) ②リーダーの視点(対話的)  ③文化行動の理論

キー概念

・変革:人間を非人間的にし、モノとして扱うような現実を変えていくこと。[208]
⇛人間的である条件とは・・・・「一人ひとりが考える主体として自分を感じていること、自分の思いを議論できること、自らの世界観をもてるということ、自分の提案を自由に表して仲間と共に議論できること」[196](第3章)
・変革のための条件:変革は、この現実をつくり上げ、そこで生きてきた人々によって行われるのではなく、その現実の下で虐げられてきた人たちが、明晰なリーダーの下に行われるものである。[208]
・フレイレの労働者観:基本的に労働者たちは「労働の売り手ではなく、主人であること」が必要。なぜなら、すべての労働の売買は、ある種の奴隷制度である」[308]
・フレイレの人間観:人間とは実践する存在。人間は何かを欲して、行いたいというような存在であるから、世界から抜け出し対象化し、認識し、自らの働きで世界を変えていく力を持った存在。[198]
⇛だから、非人間化の世界から抜け出し、人間の世界へと変えていける=革命が可能であるという意見。

支配者の視点=反対話的

・態度:偽りの寛容(支援的な関わり)
・支配者の支配方法大衆操作、スローガン化、抑圧された人を何らかの考えの容れ物のように扱い、教え込むこと、上意下達なやり方、単なる指令[201]
そこには、大衆の現実をよりよくするという視点は考慮されていない。
⇛「支配エリートは、人々の存在なしに思考することができる」[211]
⇛効果:人々が自らの言葉を発する権利を奪い、自分の頭で考えていく権利を奪い、自分の頭で考えていく権利を奪う。[202]

・大衆は、「社会に疑問を持ったり、世界を変革したりする必要もなく、ただ支配者のやり方に適応すべき」[202] ex:ギディ氏の貧しい労働者階級には教育は不要という意見。[212]
⇛大衆にものを考えさせないという意見につながる。
⇛批判する主体になると、排除の対象になる。目立たないように、周りの目をみて生活するのが無難。それって協調性??

リーダーの視点=対話的[217〜]

・「抑圧された人たちと共に、引き裂かれた者と共に、地に呪われたる者と共に世界を生きること」[215]
・人々と対話し、現実に基づいた彼らの経験を知り、リーダーの批判的知識で、そのような経験知をさらに豊かにしていき、今の現実の根底にあるものを変革していく[218]存在である。

反—対話的な行動の理論とその特徴[223]

1−1:征服→人間をモノ化する。ネクロフィリア的傾向[224]
抑圧者は世界を熟考しようとする人間の条件を圧殺していく。現状を維持するために神話化する。[226]⇛疎外[1]を維持するための方法、マスメディアによって流布され強化される[228](既存秩序=大谷モデルの維持)
1−2:分割支配→支配階級の利益を守る方法、ある者にはひいきして、ある者にはつらく当たる。[234](アメリカンドリーム的発想??誰にでも平等にチャンスはあるとみなし、しかし実際は学歴、門地、家柄で差別?)
1−3:大衆操作→大衆操作をつかって、支配者は自分たちの目標とするところに一般大衆を誘導しようとする。[240]
1−4:文化支配→侵略者(抑圧者)がモデルをつくり、侵略された者(被抑圧者)はそのモデルに組み込まれる。[250]

対話的行動の理論とその特徴[277]

2−1:協働→対話とコミュニケーション
⇛対話的な主体が常に現実に戻り、そこを媒介として、問題化を行い挑戦していく。[280]そのプロセスには、現実を常に批判的に考察するという営みによって可能となる。その意味で、主体的行動であり、変革の行為となる。
2−2:解放のための団結→人々同士、人々とリーダーの団結。[288](支配者にとっては、権力組織の強化)
上記1−1は被抑圧者を神話化に癒着させる。それに対して、対話行動の目的は、「被抑圧者がなぜ、どのようにしてこの癒着が起こってきたかを知り、不正な現実を変革していく真実の実践への行動を起こしていくこと」[290]=「どのように人間であることが否定されてきたのかをまず認識すること」[290]
⇛個々人の内面、それぞれの生活世界(人間関係、家庭、職場、社会)について深く思考するための教育が必要⇛個人の深いところを見ていくような根本的な視点を育むこと。
2−3:組織化→リーダーシップ、規律、秩序、決定、目標、金銭にかかわる業務。しかし、人々を管理したり、モノ化したりすることは正当化できない。[296]
2−4:文化統合:すべての文化行動は、社会構造と組織的、意図的な行動としてかかわっていて、現状通り、あるいは現状に近い状態に維持するか、あるいは変革するかのいずれかを目指している。[299]→対話的な文化行動が目指すものは、対立した矛盾を超え、人間の解放を目指すこと。[300]

コメント(高向)

現代日本社会でフレイレのいう革命(リーダーを中心とした組織を中心とした革命)を展開するというのは、古い感じがする。例えば、労働運動は、従来労働組合を中心として運動が展開されてきた。しかし、日本の場合、企業別組合であり、自社の正社員を守るという面では機能をしてきたが、全体として革命につながるという方向ではすすまなかったのではないか。現代においては、労働組合の組織率は年々低下してきており、組合の弱体化が進んでいる。つまり、リーダーを中心とする組織(縦型)から革命を展開するというのではなく、個々人がそれぞれ、ぼちぼちとゆるいつながりの中で、個人ユニオンに加盟するなど、個々のそれぞれの自由な実践のプロセスを通じて、人間化を死守するという方向が、現実的ではないか。という事を考えていたが、ゼミで、議論をする中で、フレイレがいう革命における、リーダーや組織というのは、アメーバ状のモノであり、かならずも系統だっている組織ではないということである。
支援者と当事者から変革を起こすというのは、利害関係の維持を前提としている。それに対して、「共に」より良い方向性(自然な目的)に向けて変革を模索するというのが、フレイレのいう変革。 市場原理を良しとする経済社会(既存秩序社会)と生活世界は原理が異なる。前者は非人間化を良しとする社会、後者は人間化を良しとする社会。前者の中で、人間化を目指す行動はかなりしんどい。そうではなく、(大谷さんは『アクセス』という)変革後の社会を勝手につくって勝手に生きる。革命後の世界を生きるというイメージ。個々人の自由な実践が、個々バラバラに広がっていく感じ。全体として、パイが増えるとそれが社会秩序に変化する。あとがきで訳者が述べているがフレイレのいう、人間化、ヒューマ二ゼーションには定義がない。ヒューマ二ゼーションとは永続的なプロセスを指す概念であると述べている。つまり、「変革後の世界を勝手に生きる」というプロセスが、フレイレのいう人間化のプロセスとつながるのではないか。
[1] 疎外とは、初期マルクスでは、資本主義的生産の中で人間的存在や労働の本質が人間に失われていること。

コメント(山根)

本の中で語られる「革命」が実際にどのようなものなのか、イメージするのが難しく、また「革命」と本書で革命において重要だとされている「対話」と相反するイメージがあり読み進めるのが困難に思えた。しかし、ここでの革命とは階級をひっくりがえすことではなく、対話を進めることの結果として人々がエンパワーされてことにより起こっていくこと。
読後に日本における現代の革命のリーダーとしてイメージされたのが、湯浅誠さん。「年越し派遣村」などの活動は、ここでいう「革命」にあたるのかもしれない。革命とは遠い世界の出来事だと思っていたが、日本でも、こういった革命は時々起こっており、「革命のリーダー」である人たちも結構存在しているのかもしれないと思った。

コメント(大谷)

リーダーシップに関して「リーダーシップは人々との交わりを通じて形作られるものだ(…)人々との実践のうちに、自然とリーダーとしての自分が作られていくことを感じる[208]」「被抑圧者もまた変革行動の主体としてのリーダーシップを持つのであり[206]」とあるように、必ずしも「予め」リーダーが存在して革命を率いるのではなく、対話を通じてリーダーが生まれてくる、しかも、その要素は被抑圧者にもある、というのは「強力なリーダーシップをもった特別な人間によって革命が実施される」というイメージを覆すものだった。
「リーダーは人々を抜きにして思考することはありえないし、人々のために思考することもない。人々と共に思考する[211]」とあるが、この「ために」ではなく「ともに」という考え方が、支援(ために)と連帯(ともに)との違いをわかりやすく示している。また「抑圧する側のエリートが、人々と共に考えず、ただ人々について考えているだけであり[213]」という記述もあり、「について」の持つ支配的構造も面白い。
以下憶測。日本では、例えば友人と一緒にいる場合に「〇〇といる」という言い方をし、「〇〇とともにいる」とは普通は言わない。「ともに」という言葉は日本では暗黙のうちに文脈に内包されていることが多いのではないか。であれば、日本においてもともと「ともに」というものが文化的に漉き込まれているのかもしれない。
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